「自分にもできるかも」が起業家エコシステムを育てるーー地方で挑戦する起業家たちが語るスタートアップのリアル【EVENT REPORT#2】

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「どうして、スタートアップなのに地方ではじめたんですか?」

きっと、幾度となく繰り返されてきた質問だろう。

日本のスタートアップの中心地は東京。多くの起業家が集うこの場所では、日夜新しいサービスが生まれては消えていく。スタートアップで成功することを夢見て、地方に生まれながらヒト・モノ・カネが集まる東京を目指す若者の姿も後を絶たない。

2017年8月30日、その流れに反して地方からスタートアップを展開する3名が名古屋に集まった。彼らが語るテーマは「あの日、東京を選ばなかった理由。“地方”という舞台で挑戦することを決めた起業家たちの本音」。

株式会社IDENTITYでは、マーケティングやスタートアップなど各分野で活躍されている人物をゲストとして招き、経験に基づいたビジネス戦略についてのトークセッションを行うイベントを主催している。

2017年6月には人気クリエイターカツセマサヒコ氏を招いた企画を開催。第2回となる今回は、「東京以外」をあえて拠点に選択し事業を展開するスタートアップ経営者・ベンチャーキャピタリスト3名を招き、地方スタートアップの戦略や葛藤、地方から挑戦する現実について赤裸々に語ってもらった。

当初50名を予想していた会場は、定員を大きく超え追加枠も用意するほどの大盛況となった。地方に沸々と満ちる熱気を象徴するかのような雰囲気のもと、静かにイベントは幕を開けた。

PROFILE(※順不同)


豊吉隆一郎(株式会社Misoca 代表取締役)
2011年6月、株式会社Misoca(旧スタンドファーム株式会社)を設立。Web上で簡単に請求書を作成し、郵送まで出来るクラウド型の請求書発行・管理サービス「Misoca」を開始。2016年2月、業務ソフトフェア「弥生シリーズ」を提供する弥生株式会社に会社を売却し、現在も代表取締役として事業を牽引する。


カズワタベ(ウミーベ株式会社 代表取締役CEO)
音楽大学卒業後、クラブジャズバンドの活動を経て2011年にGrow株式会社を創業。その後独立し、福岡に移住。2014年8月にウミーベ株式会社を設立。代表取締役CEOに就任。「釣り×テクノロジー×デザイン」をコンセプトに、釣りが楽しくなる情報&ニュースサイト「釣報(ツリホウ)」、釣果共有カメラアプリ「ツリバカメラ」の開発、運営を行なっている。


澤山陽平(500 Startups Japan マネージングパートナー)
修士(工学)JPモルガンTMTセクターの資金調達やM&Aアドバイザリー業務に携わった後、野村証券の未上場起業調査部門である野村リサーチ・アンド・アドバイザリー(NR&A)においてITセクターの未上場起業の調査/評価/支援業務に従事。2015年12月から現職。シリコンバレーを拠点に、60カ国1,800社以上のスタートアップへ投資する、世界で最もアクティブなシード投資ファンド「500 Startups」日本法人のパートナー。神戸市と共同でアクセラレータプログラムを立ち上げるなど、地方での起業文化育成にも積極的に取り組む。

それぞれが語る「あの日、地方を選択した理由」

名古屋駅から10分ほどの会場に、年齢層も所属もバラバラの総勢70名ほどの参加者が集まった。モデレーターを務めたモリジュンヤの言葉に端を発し、静かに会は幕をあけた。

モリジュンヤ(以下、モリ):今日は「地方で起業すること」をテーマに、お三方に色々と聞いていこうと思います。ワタベさんは福岡で起業されていますが、福岡に決めた理由は何でしたか?

カズワタベ(以下、ワタベ):僕は19歳から東京に住んでいたんですが、東京の住環境が肌に合わず、起業を機に福岡へ移住しました。ただ、住環境以外に、IT・Web関連のコミュニティが存在しているかどうかは意識しましたね。

最終的には京都と福岡で迷ったのですが、福岡はコミュニティがオープンで疎外感を全く感じさせない。その点が気に入って福岡に決めました。移住してからも、自分がよそ者だからやりづらいと感じたことはありません。

モリ:名古屋に本社を置く豊吉さんはどうでしょうか?

豊吉隆一郎(以下、豊吉):私が名古屋を選んだタイミングは、フリーランスになった時と起業した時の計2回ありました。私は岐阜出身なのですが、フリーランス時代に愛知に来た時は、都会に出るつもりで名古屋を選びました。(笑)

起業をした時は、場所ではなくて人で名古屋に決めました。当時私は名古屋でIT勉強会を主催していたのですが、そこでできた仲間と一緒に働きたいと思い、そのまま名古屋で会社を設立しました。

地方に必要なことは「自分でもできる」と思わせること。名古屋を選んだスタートアップMisocaの軌跡

モリ:澤山さんは前職の野村証券時代に地方に行く機会が多かったと伺いましたが、地方の起業家たちと「なぜその土地に決めたのか」という話をすることはありましたか?

澤山陽平(以下、澤山):やはり多かったのは、その土地に所縁があった、そこで育ってきたという理由ですね。その土地に根付いている人の方が土地が抱える課題にも気づきやすいというメリットはあると思います。例えば、大分に牛の出産を検出するIoTデバイスを作ってる会社があるのですが、東京のIT企業に勤めている人では、牛の出産を検出する必要性にはなかなか気づけません。地元の60歳くらいのおじいちゃんだからこそ作れたプロダクトなんです。

地方スタートアップの資金調達と採用事情。地方の難しさは事業拡大にあり

次第にトークテーマは地方スタートアップ特有の問題へと移っていった。地方で起業すること自体は簡単だが事業拡大が難しいという話を受けて、モリが口を開く。

モリ:地方では0→1を作り出すところよりは1→10、10→100と事業を伸ばしていくところが大変だといわれることがありますが、ワタベさんはどう感じていますか?

ワタベ:よく言われるのは資金調達と、採用ですよね。ただ、資金調達面でいうと、今は東京のVCが地方に注目しているので、地方からアプローチをかけると喜んでもらえることもあります。あとは、地銀系ファンドには「そのエリア内しか投資できない」などの縛りがあるので、地域によってはお金を出してもらいやすい場合もありますね。

採用に関しては、一長一短だと思っています。東京の方が圧倒的に母数は多いですし、質が高い人材もいますが、企業数も多く競争が激しい。一方、地方には競合する企業が少ないので、「このエリアで一番いけてるスタートアップだ」と打ち出すことができれば、東京よりもいい採用ができると思います。

豊吉:私の場合、得したなと思うことの方が多いです。特に印象に残ってるのが、Wantedlyでインターンを募集した際に応募が殺到した時のことですね。面接の際に理由を聞くと「だって御社しかなかったから」と言われたことがあります。(笑)

ワタベ:ウミーベもWantedlyでよく採用しています。地方ではコミュニティの結びつきが強いので、リファラル採用が多いです。福岡はも若手エンジニアの勉強会コミュニティが強いので、そこ経由で応募いただくことも多いですねとか。

モリ:なるほど。地方にはプレイヤーが少ないから競争相手や比較対象が少なく、採用も優位なんですね。

一番の課題は広報人材不足。地方ならではの広報や行政との付き合い方

次に、地方スタートアップが抱える課題に話の焦点が移っていく。

ワタベ:逆に一番弱点だと感じているのは、広報PRですね。東京は日本で一番有名になるのが大変な地域なので、東京で頭角を現せれば全国的に有名になるのはそう難しくありません。

一方、地方にはそのエリアでしか有名になる経験をしていない人材が多いので、自社サービスを全国や世界に広げていくノウハウを持っている人が非常に少ない。地方の企業はサービスを広げていくタイミングで大変だという印象があります。

豊吉:「地方には広報PR人材がいない」という点は僕も実感しています。理由は明確で、地方にはテレビ局や出版社がなく、広報PRの経験者が少ない。だから、地方のスタートアップには広報のノウハウも、発信していく習慣も浸透していない。

モリ:人材面は弱い一方、地方ならではの戦い方のようなものはあるのでしょうか。例えば地方にはネタが少ない分、地元メディアと関係構築をしやすいなどあるのかなと。

豊吉:そうかもしれません。うちも地元の経済新聞に取り上げてもらう機会もありました。2013年くらいにはまだ名古屋で資金調達している会社が数える程しかなかったので、珍しがってもらえたというのもあると思います。

モリ:そういう意味では、地方でスタートアップに対して熱意を持っている人がいると、良い関係を気づきやすいのかもしれませんね。

澤山:確かに、昨年行った神戸市のアクセラレータープログラムでいい事例がありました。参加者の中に、日本の医療サービスを求めて来日する人と適切な日本の医療機関をマッチングする「医療ツーリズム」のサービスをやりたいという外国人の方がいたんです。彼は、立ち上げ直後だったり外国人だったりで、資金調達や、病院探しに苦労していたのですが、プログラムを通して神戸市が熱心にサポートしたことで無事に事業化へ繋げることができましたた。

ワタベ:福岡市もその流れは強いですね。特に場を作る支援が盛んです。東京でいう渋谷のような一等地に「Fukuoka Growth Next」という官民共働型のスタートアップ支援施設があります。これは、廃校になった小学校をリノベーションしてスタートアップの支援施設にしようと、福岡市長がトップダウンで動かしできたものなんです。

地方スタートアップの「ハイブリッド」な資金調達戦略

モリ:先ほどワタベさんから資金調達についてのお話がありましたが、各社が行なった資金調達について詳しく聞いていきたいと思います。資金調達には、金融機関や投資家からお金を借り入れることで資金を調達する「デッド」と、株式を発行することでVCなどから資金を調達する「エクイティ」の大きく2種類がありますが、Misocaはどのように初期費用を集めたんですか?

豊吉:私はもともと個人事業主で開発をしており、その延長で共同創業者を迎え起業しました。サービスをリリースしたのは起業から半年後くらいのことです。最初の2年くらいは、一人が受託で資金を稼ぎ、もう一人が自社サービスを作りと役割を分担していました。

その後ユーザー数も順調に増え、開発リソースを拡充するために、受託開発をやめようと考えました。しかし当時私はすでに結婚しており、生活水準を下げるのは難しい。受託を単純に辞めて収益を落とす決断ができませんでした。とはいえ、中途半端なことをしていては競合に負けるという危機感もあった。そこで、スピードを得るためにVCからの出資を受けることにしました。

モリ:開発のスピードを重視して資金調達を行なったんですね。ウミーベの場合はどうですか?

ワタベ:サービスをリリースするまでの開発期間を行政からの融資でしのぎ、リリース以降はサービスの成長を期待してくれたVCから資金調達をして…といった感じでした。最初に資金調達をした時は、福岡のVCと東京の事業会社の計2社から融資を受けました。

それから1年後、アプリをリリースしてメディアが伸びたタイミングで2回目の調達を実施。最初の2社に加えて、東京のファンド、メガバンク、九州の地方銀行から資金調達しています。

モリ:初期段階はデッドで資金を集め、それからエクイティに切り替えたということですね。地方発で起業する場合には、デッドとエクイティを使い分けながらハイブリッドな資金調達を行ってサービスを成長させている印象がありますが、澤山さんはどう感じていますか?

澤山:地方にはそもそもVCが少ないので、VCから資金を調達するという概念自体を持っていない経営者も多いと思います。自己資金のみか、自己資金にプラスして借入れを行なっているケースが多いですね。逆に、上手くVCを活用されている方は成長曲線に素早く乗せられている人も多い印象です。

「自分にもできるかも」が増えることが起業家のエコシステムを育てる

モリ:最後に、起業家を排出するエコシステムの話をしていきたいと思います。地域によって起業をめぐる状況や環境は結構違うのかなと思いますが、エコシステムが成熟していくためには何が必要だと思いますか?

ワタベ:地方にも若手で成功した事例が出てくると変わってくると思います。東京の起業家が成功していても、「なんかすごい人すごいことやってる」みたいな他人事になってしまう。これはまさに僕が東京で実感したことなんですが、大学で一緒に授業出てる友達が起業して億万長者になると「自分にもできるんじゃないか」と思えるんですよね。そこで当事者意識が生まれてくる。

近しい人の成功体験は重要で、みんな一番最初にやるのは怖いけど、二番目なら結構やるんです。

モリ:豊吉さんはどう思いますか?

豊吉:名古屋はエコシステムの成熟度という点ではまだまだだと思っています。でも、近しい人の成功体験が重要だというお話は本当にその通りだと思います。私はフリーランス時代にこれからマザーズ上場するスタートアップの手伝いをしていたことがあったのですが、その経験を通してスタートアップや上場の仕方を知りました。

その会社の代表はいい意味で隙のある方で、人間的には魅力的だけど、スキル的には周りが助けてあげないととなる方でした。それまでは上場企業の社長は完璧な人間だと思っていたのですが、そのイメージを崩してくれた出会いでもありましたね。私はたまたまそういった体験をできたから、起業してみようと思えた。

「自分にもできるかも」と思える人が増えるとエコシステムができていくと思うので、僕もどんどん情報を発信していきたいと思います。

澤山:失敗事例の共有ももっと行った方がいいと思います。東京のスタートアップ界隈だと起業に対して楽観論があるのですが、地方だと「起業して失敗したら終わり」というように怖がっている人が多い印象です。

豊吉:僕も以前はそう思っていました。一回会社が終わったらもうおしまいみたいな。でも実際は逆で、Misocaだと一度スタートアップを畳んで入って来た人が活躍しています。海外だとFailConという起業家の失敗談を共有するカンファレンスもありますし、失敗事例を共有するのもいいのかもしれないですね。

ワタベ:スタートアップをやったことある経験者って、世の中的にはめちゃくちゃマイノリティでとてつもなく貴重な人材なんですよ。資金調達、採用、ビジネスモデル作り、プロダクト開発まで幅広く経験した人間なんてそうそういないので、失敗しても絶対どこかの会社が拾ってくれると思います。特にIT業界だと、起業に失敗した後に仕事がないという状況はイメージがつかないですね。

 

気づけば、会も終了の時刻に。トークセッション終了後も多くの若手社会人や学生起業家が登壇者の元を訪れ、熱気が冷めやまないままにイベントは幕を閉じた。

イベント終了後に印象的だったのは、登壇者を取り囲む若手起業家の後ろ姿。きっと、この日会場に生じた小さな上昇気流が重なって、いつか名古屋にも大きなエコシステムが形作られていくのだろう。

終始和やかなムードで進んだ本イベント。しかし、緊張の糸がほぐれた会場内には、名古屋スタートアップ文化の芽生えを感じさせる予感があった。

 

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イベント協賛:中京テレビ

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